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島ひきおに [小説、童話]

また、夏休みの読みたい一冊です。



山下明生・童話の島じま〈3〉梶山俊夫の島・島ひきおに








この「島ひきおに」という物語は作者がある伝説を基に書いた童話だそうで。

「島ひきおに」のあらすじですが、昔小さな島に鬼が独りぼっちで住んでいて、寂しい日々を送っていました。船が通る度に「こっちに来て遊んで行け!」と声を掛けますが、当然ながら怖がって誰もよりつきません。
ある荒らしの晩、たまたま通りかかった船が、助けを求めようとして島へ立ち寄ります。鬼は大喜び。漁師に話しかけます。漁師たちはびっくり!そして、「命ばかりはお助けください」と鬼に頼みます。鬼は、
「独りじゃさびしいから、あんたたちと一緒にくらしたいけど、どうしたらいいのだ」
と訊きます。すると漁師は思わず、
「私たちの島はせまいので、あなたが住んでいる島を持ってきたら一緒に暮らせるでしょう」
と、いってしまいます。
次の日から鬼は、いい事聞いたとばかりに、早速島を引っ張る準備をします。最初の日は島の下を削ります。そして3日目には島を引いて海を歩き始めました。
そしてようやく浜辺の村に着くと、
「おーい島を引っ張って来たぞ。こちに来て遊んで行け!」
とみんなにいいます。「鬼の島が真ん前にあったら漁にも出らない」と、村人たちは困ってしまいます。まさか本当に島を引いて来るとは思わなかったでしょうから。そして、やせっぽっちの3人の村人が出てきて、
「私たちの村は貧乏でこの通り骨と皮だけです。食べてもおいしくありません他のところへ行ってください」、「みんな腹がペコペコで遊べるものが1人もいません。ほかの村へ行ってください」
とわざと死にそうな声でいいます。鬼は仕方なく島を引いて別な村へ行きます。
いつものように「遊んで行け!」といいます。その村でも相談が始まります。すると一番年を取ったおじいさんが鬼のところへ出かけて行きました。
「わし1人を食べて他の村へ行ってください。わしの骨は息子が取りに来ます」
といって、鬼と一緒に寝ます。次の朝、おじいさんは、鬼が寝ている間に、隠し持っていた犬の骨を、寝床に入れて逃げ帰ります。鬼はびっくり仰天!おじいさんの代わりに骨が寝ていました。
やがて、おじいさんの息子がやって来て、骨を取りに来ます。
「骨はあるが、わしが食べたんじゃない」
と、おじいさんの息子にいいますが、
「寝ているうちに間違えて食べてしまったんだろう」
といわれ、また島を引っ張って海の中を歩き始めます。
その後もいろんな村を訪れるのですが、何等かの理由を付けられては村をたらい回しにされます。
そして、何年もそうしているうちに島は波に削られ消えてしまい、鬼はやせ細ってしまいました。

妖怪が人間と仲良くしようとした点では先日お話した「かっぱのめだま」と似た所がありますが、大きな違いは、鬼も悪い事したわけではないし、自分たちを守ろうとした村人も悪くないんですね。だから、どちらも、責めようがないんですね。しかも、誰も幸せになれないんですね。

「島ひきおに」はこれで終わりかと思いきや、まさかの続編!「島ひきおにとケンムン」というお話がそれなんですよ。ある島に流れ着いた鬼はケンムンという怪物と仲良くなります。ケンムンとは河童みたいな妖怪です。ネタバレなしでいうと、鬼にやっと仲のいい友達ができたのに・・・、という感じですかね・・・。あと、ケンムンの悲しい過去も見ものです!

「島ひきおに」と「島ひきおにとケンムン」、どちらも、誰からも理解してもらえない、森を荒らして環境破壊をする人たち、愛すべき者を失う、など、これらは現実に起きている事なんですね。

ちなみに、「島ひきおに」と「島ひきおにとケンムン」、どちらから読んでも問題ない作りになっています。
勿論、「島ひきおに」シリーズ以外の物語も収録されています。
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コメント 4

don

悲しい話ですね。
島を引っ張るような力があっても、
仲間にしてもらえないという。
by don (2020-07-27 20:28) 

のべる・K

>donさん

そうなんですよ~。
努力はするも、まったく報われないという悲しい話なんです。
by のべる・K (2020-07-29 20:56) 

ステイク・ミディアム

こんばんは。またもご無沙汰してしまい申し訳ございません。

かっぱのめだま、も残酷な逸話でしたが、こちらはある意味それに輪を架けてつらいものを感じさせられますね。
悪意はなくただただ寂しがりやな鬼、そしてそんな鬼の胸中を察するすべもなく卑劣な手段とはいえ距離を置かずにはいられない人々…双方がすれ違い、分かり合えない、というのはウィルスパニックの今のご時世にも通ずるものがあるのではないかと。
尤も、パンデミックについては、さんざ不愉快な動画をアップロードした挙句に感染、それをもネタに複数の人たちにウィルスをばらまいた某迷惑ユーチューバーや、感染者を茶化しバカにするようなポスターをこしらえてあちこちに貼りまくって逮捕された輩のように、フィクション以上に性根の腐りきった奴らもいるのがはらわたの煮えくり返るばかりではありますが。

それにしても、その島ひき鬼の後日談はケンムンとの友好で救われる、というのが救いですが、かと思えばバッドエンドらしい、というのはこれまたつらい……。
現実の人間社会がいつまでも濁り水の中をさまよう限り、妖怪と人間が分かり合って仲良くできることも、妖怪同士の幸せも、悲しいハナシですが実現できないのかもしれませんね。
by ステイク・ミディアム (2020-08-01 20:02) 

のべる・K

いつも遅くなってすみません!
これはある意味かっぱのめだま以上に悲しい話なんですね。
ここで申し上げたように、このお話は現実で起きている事を描いていると考えられます。
あのコロナウィルスに感染したユーチューバー自身は自業自得ですが、周りが迷惑をこうむってしまいました。
確かに、あのポスターは許せないですね。

かなりネタバレですが、最後にケンムンはどこかに消えてしまい鬼はまた海をさまよいはじめる、という感じですね。
確かに、お互いに分かり合えない限り、誰も幸せになれないと思います。
by のべる・K (2020-08-05 00:34) 

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